夏場の職場では、熱中症対策が欠かせません。
水分補給や休憩、暑さ指数の確認はもちろん大切です。
しかし、もう一つ見落とされやすいポイントがあります。
それが「暑熱順化」です。
暑熱順化とは、体が暑さに慣れていくことをいいます。暑さに慣れていない状態で、急に高温多湿の環境で作業をすると、熱中症のリスクが高まりやすくなります。
特に、梅雨明け直後、急に気温が上がった日、連休明け、新入社員、配置転換直後、休職・病欠明けの従業員には注意が必要です。
熱中症対策は、本人の体力や気合いに任せるものではありません。
会社として、暑さに慣れていない人を見落とさないことが、労災防止の観点からも大切です。
暑熱順化とは何か
暑熱順化とは、体が暑さに慣れることです。
人の体は、暑い環境に置かれると、汗をかいたり、皮膚の血流を増やしたりして、体の中にこもった熱を外に逃がそうとします。
しかし、暑さに慣れていない時期は、この体温調節がうまく働きにくく、体内に熱がこもりやすくなります。
厚生労働省の「職場における熱中症防止のためのガイドライン」では、暑熱順化の方法として、7日以上かけて暑熱環境での身体的負荷を増やし、作業時間を調整しながら次第に長くすることが示されています。
つまり、暑さに慣れるためには、いきなり通常どおりの作業をさせるのではなく、一定期間をかけて段階的に体を慣らしていくことが大切です。
また、日常生活の中でも、無理のない範囲で汗をかくことは暑熱順化につながります。日本気象協会の「熱中症ゼロへ」でも、運動や入浴などにより、暑くなる前から体を暑さに慣れさせることが大切だとされています。
ただし、これは「暑い中で無理をして鍛える」という意味ではありません。
体調、その日の気温、湿度、作業内容を考慮しながら、少しずつ暑さに慣れていくことが重要です。
暑さに慣れていない人ほど注意が必要
職場で特に注意したいのは、次のような従業員です。
・新しく入社した従業員
・長期休暇明けの従業員
・休職、病欠明けの従業員
・配置転換で作業環境が変わった従業員
・屋内勤務から屋外作業に変わった従業員
・暑い作業に久しぶりに従事する従業員
「若いから大丈夫」
「経験者だから大丈夫」
「本人が何も言っていないから大丈夫」
このような判断は危険です。
一度暑さに慣れた人でも、しばらく暑い作業から離れると、暑熱順化の効果は弱まります。
連休明けやお盆休み明けに、いつもどおりの感覚で作業をさせることには注意が必要です。
新入社員・休み明け・配置転換者への配慮
暑熱順化の観点では、最初から無理をさせないことが重要です。
たとえば、次のような配慮が考えられます。
・初日は作業時間を短くする
・暑い時間帯の作業を避ける
・重い作業や連続作業を減らす
・休憩をこまめに取らせる
・一人作業を避ける
・管理者が声をかける
特に新入社員や配置転換者は、体調が悪くても言い出しにくいことがあります。
会社や管理者は、本人の申告だけに頼らず、表情、動き、受け答え、ふらつき、汗のかき方などを確認することが大切です。
異変に早く気づくことが大切
元消防士の視点から見ると、熱中症で怖いのは、「いつもと違うサイン」を見逃してしまうことです。
たとえば、次のような変化には注意が必要です。
・顔色が悪い
・動きが遅い
・会話の反応が鈍い
・ふらついている
・ぼーっとしている
・汗のかき方が普段と違う
・自力で水分を取れない
このような状態が見られる場合は、「少し様子を見る」よりも、早めに作業を止めることが大切です。
涼しい場所へ移動させる。
衣服をゆるめる。
身体を冷やす。
水分を取れるか確認する。
意識や受け答えに異常があれば、救急要請を検討する。
熱中症は、対応が遅れると重症化することがあります。
「休ませたから大丈夫」ではなく、回復するまで状態を確認することが重要です。
会社の熱中症対策に組み込む
令和7年6月1日から、職場における熱中症対策は強化されています。
一定の熱中症リスクがある作業については、体調不良者を発見した場合の報告体制や、症状の悪化を防ぐための対応手順を定め、関係者に周知することが求められています。
この流れを踏まえると、暑熱順化も個人の体調管理だけで考えるべきではありません。
会社として、次のような視点を持つことが大切です。
・暑さに慣れていない従業員を把握する
・連休明けや配置転換後の作業計画を見直す
・初日から高負荷の作業をさせない
・休憩や声かけを増やす
・異変時の報告先を明確にする
・体調不良を申し出やすい雰囲気を作る
熱中症対策は、「水分を取ってください」と伝えるだけでは足りません。
誰が暑さに慣れていないのか。
どの作業に負担があるのか。
異変があったときに、誰が対応するのか。
ここまで整理しておくことが、労災防止の観点からも重要です。
暑熱順化は、目立つ対策ではありません。
しかし、暑さに慣れていない従業員を見落とさないことは、職場の熱中症予防において大切な視点です。
「暑いから気をつけて」で終わらせず、会社として作業計画、休憩、声かけ、報告体制を整えることが、従業員の命と健康を守ることにつながります。
セーフコア社会保険労務士事務所では、中小企業の労務管理、労災防止、職場トラブル予防の観点から、会社の実情に合わせた安全衛生体制づくりを支援しています。


