労務担当者がいない会社は何から始める?少人数の職場の5つの労務管理チェック

小さな会社の経営者と相談担当者が、机上の書類とノートを確認する様子

採用する人を探し、給与を確認し、急な欠勤の連絡にも対応する。少人数の会社では、経営者が労務担当者を兼ねることも珍しくありません。

「今のところ大きな問題はない。でも、何か抜けていないか気になる」。そんなときは、従業員との約束、勤務の記録、必要な手続きがつながっているかを確認するところから始めましょう。

この記事では、労務担当者がいない会社向けに、最初に見たい5項目と、確認する書類を整理します。手元の資料を使って、自社で確認すべき点と着手順を見つけていきましょう。

目次

まずは、今使っている書類をそろえる

新しい様式を作る前に、現在使っている書類やデータを一か所で確認できるようにします。保管場所が分からないものは、それ自体が見直しの手がかりになります。個人情報を含むため、閲覧できる人は必要な担当者に限りましょう。

  • 労働条件通知書・雇用契約書と、現在の従業員一覧
  • 勤怠記録、賃金台帳・給与明細、36協定の控え
  • 年次有給休暇の管理簿
  • 入退社時の保険手続きの控えや処理結果
  • 就業規則、社内ルール、相談先の案内

書類があるかだけで終わらず、直近に入社した人や勤務条件が変わった人について、書類と実際の働き方を照らし合わせます。気になる点が見つかったら、他の従業員についても確認範囲を広げます。

チェック1|採用時の約束と、今の働き方が一致しているか

勤務場所、仕事内容、勤務時間、賃金、契約期間などを、従業員と同じ認識で説明できるでしょうか。口頭で伝えた内容と通知書が食い違っていないか、条件を変更した後も古い書類のままになっていないかを確認します。

労働契約を結ぶ際、主要な労働条件は原則として書面の交付が必要です。本人が希望する場合には、出力して書面を作成できる電子メール等による明示も認められます。口頭の説明だけで済ませていないかを確認してください。明示方法は、厚生労働省の労働契約に関するQ&Aでも確認できます。

2024年4月からは、労働契約の締結時と有期契約の更新時に、就業場所・業務の「変更の範囲」の明示が必要になっています。有期契約で更新上限を定める場合は、その内容も明示します。最初の契約締結より後に上限を新設・短縮する場合は、事前の理由説明が必要です。また、無期転換申込権が発生する更新時には、申込みの機会と無期転換後の労働条件の明示も必要です。

更新上限がない場合に「上限なし」と明示すること自体は、法令上の義務ではありませんが、認識の食い違いを防ぐために書面で明確にすることが考えられます。また、2024年4月より前から雇用が続いているだけで、全員への再交付が義務になるわけではありません。適用時期を含め、厚生労働省の労働条件明示の案内労働条件明示Q&A(PDF)で確認しましょう。

最初の一歩:直近の採用者の通知書を開き、採用時に説明した条件と実際の勤務を確認する。書類の不足や食い違いがあれば、経緯を整理して対応を検討します。

詳しくは、「労働条件通知書」を正しく交付できていますか?をご覧ください。

チェック2|勤怠の記録が、給与計算につながっているか

出勤日数だけでなく、毎日の始業・終業時刻や休憩の実態を確認できるでしょうか。シフト表は予定を示すものなので、それだけで実際の労働時間を把握したことにはなりません。

労働時間の把握は、使用者による確認や、タイムカード・パソコンの使用記録などの客観的な記録を基に行うことが原則です。記録上の退勤後に片付けや業務連絡が続いているなど、実態とのずれがあれば確認が必要です。具体的な方法は、厚生労働省の労働時間把握に関するQ&Aでも示されています。

法定時間外労働や法定休日労働を行わせる場合には、原則として、事前に36協定の締結・届出が必要です。「残業代を払っているから大丈夫」とせず、有効期間や協定内容も確認します。36協定は、事業場の過半数労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は適正に選出された過半数代表者と締結します。締結した協定は従業員への周知も必要です。労働局の36協定の案内も確認してください。

あわせて、勤務実績が給与計算に反映され、必要な割増賃金が計算されているかを見ます。会社が決めた終業時刻を過ぎた時間と、法律上の時間外労働は必ずしも一致しないため、適用する労働時間制度も含めて確認しましょう。

最初の一歩:直近1か月の勤怠と給与明細を照合し、勤務時間・残業・休日出勤がどこに反映されているか説明できる状態にする。賃金の不足が疑われる場合は、早めに確認と是正に着手します。

36協定の基本は、36協定と時間外労働についての記事で解説しています。

チェック3|有給休暇の付与日と取得状況が分かるか

「本人から申請があれば休ませている」という運用でも、誰に何日付与し、いつまでに何日取得しているかが分からないと、確認が難しくなります。パート・アルバイトも、要件を満たせば年次有給休暇の対象です。

法定の年次有給休暇が年10日以上付与される労働者については、原則として基準日から1年以内に5日取得させる必要があります。対象は正社員だけではありません。本人の請求や計画的付与で取得した日数は算入できますが、時間単位の取得分はこの5日には算入できません。

取得が不足する場合、会社は本人の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めたうえで、必要な日数について時季を指定します。前倒し・分割付与などでは管理期間の取扱いが異なる場合があるため、自社の付与方法も確認してください。根拠や管理簿は厚生労働省の年次有給休暇の解説、取得日数の数え方は年5日取得義務のQ&Aを参照してください。

最初の一歩:従業員ごとに、基準日・付与日数・取得日・取得日数を確認する。5日取得の対象者については期限までの見通しも確認し、休めるように業務を調整します。

チェック4|入退社や勤務条件の変更が、手続きにつながっているか

入社日を把握していても、必要な情報がそろわず手続きが止まっていたり、勤務時間の変更が担当者に伝わっていなかったりすることがあります。採用・退職・勤務条件の変更を、誰が受け取り、誰が手続きの要否を確認するかを決めましょう。

労災保険、雇用保険、健康保険・厚生年金保険は、それぞれ適用の仕組みや加入要件が異なります。「人数が少ないから」「パートだから」だけでは判断できないため、事業所の状況と一人ひとりの雇用条件を確認します。健康保険・厚生年金保険の例は、日本年金機構のパートタイマーに関するQ&Aでも確認できます。外部へ手続きを依頼している場合も、会社から必要な情報を渡し、完了まで確認する運用にしましょう。

最初の一歩:最近の入退社や勤務時間の変更を一覧にし、必要な手続き・担当者・期限・完了確認を並べる。未処理のものがあれば、速やかに手続先や社会保険労務士へ確認します。

採用時の手続きは、労働保険の手続き社会保険の手続きの記事も参考にしてください。

チェック5|共通のルールと、迷ったときの相談先があるか

欠勤の連絡先、休暇の申請方法、残業を指示・確認する人、従業員から相談を受ける人が決まっているでしょうか。経営者がいる日といない日で対応が変わらないよう、日常的に使うルールを整理します。

就業規則の作成・届出は、常時10人以上の労働者を使用する事業場で必要です。人数にはパート・アルバイトも含まれます。会社全体の人数だけでなく、事業場ごとに確認する点にも注意しましょう。詳しくは、厚生労働省の就業規則の案内(PDF)で確認できます。

作成・変更に当たっては、事業場の過半数労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は過半数代表者の意見を聴き、意見書を添えて届け出ます。作成した就業規則は従業員への周知も必要です。また、既存の労働条件を不利益に変える場合は、就業規則を書き換えるだけで当然に有効になるわけではないため、変更の内容と手続を確認します。変更の基本的な考え方は、厚生労働省の労働契約法の案内を参照してください。

10人未満で作成・届出義務がない場合でも、労働条件や休暇などのルールが不要になるわけではありません。今ある決まりを整理し、従業員が確認できる状態にしておくことが、説明の食い違いを減らします。

ハラスメントの相談先もあわせて確認します。2026年10月1日からは企業規模を問わずカスハラ対策も義務化されるため、顧客対応で困ったときの連絡先や引継ぎ方法を整えておきましょう。制度の内容は、厚生労働省のハラスメント対策の案内で確認できます。

最初の一歩:従業員からよく聞かれる質問を書き出し、会社としての回答と相談先をそろえる。ルールの整備については、従業員10人未満でも就業規則を作るべき?もご覧ください。

見つかった課題は、担当者と着手日まで決める

確認した結果は「できている・要確認・未対応」などで整理すると、次にすることが見えます。すべてを同時に作り直すよりも、現在起きている問題や期限が近い手続きから着手しましょう。

確認項目手元で見るもの
労働条件通知書・契約書と、現在の勤務条件
勤怠と賃金実際の勤務記録・給与明細・36協定
有給休暇基準日・付与日数・取得状況
入退社等の手続き対象者一覧・手続きの控え・処理結果
ルールと相談先就業規則・社内の案内・担当者の連絡先

安全に関わる問題、賃金の不足、手続きの漏れなどが分かった場合は、優先して対応します。そのほかの課題も「誰が」「いつまでに確認するか」を決め、確認して終わりにしないことが大切です。

この5項目は、労務管理の全分野を網羅した点検ではありません。健康診断、安全衛生、育児・介護休業なども、業種や従業員の状況に応じて確認が必要です。まず手元の情報を整理すると、専門家にも具体的に相談しやすくなります。

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「書類はあるが、内容に自信がない」「何を依頼すればよいか分からない」「今回のチェックで確認したいことがある」という段階でも、現在の運用を伺い、優先して整えることを一緒に整理します。相談の際は、従業員数、困っていること、今使っている書類を分かる範囲でお知らせください。

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参考資料

制度・資料の確認日:2026年9月1日。

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