令和8年4月施行|高年齢労働者の労災防止で会社が取り組む5つの対策

65歳を過ぎても働くことは、珍しいことではなくなりました。

総務省の「労働力調査 2025年平均結果」によると、65歳以上の就業者は943万人。65~69歳の就業率は54.5%で、すでに半数以上が働いています。

一方、厚生労働省の令和7年労働災害発生状況では、休業4日以上の死傷者13万5,333人のうち、60歳以上は4万2,318人でした。年齢別表を合計すると全体の31.3%となり、約3人に1人を占めています

こうした状況を踏まえ、令和8年4月1日から、高年齢者の特性に配慮した労災防止措置が事業者の努力義務となりました。

ただし、対策の目的は、年齢や体力によって「働ける人」と「働けない人」を選別することではありません。

本人の状態と仕事のリスクを把握し、安全に働き続けられる環境へ整えることが目的です。

目次

高年齢労働者の労災で注意したいこと

高年齢労働者の死傷者が多い背景には、働く高年齢者そのものが増えていることもあります。

そのため、死傷者に占める割合だけで、直ちに「高年齢者は事故を起こしやすい」と判断することはできません。

しかし、労働時間を考慮した「死傷度数率」を見ても、令和6年の60歳以上の発生率は、30代と比べて男性が約2倍、女性が約5倍となっています。

また、年齢が上がるほど、労災が起きた場合の休業見込み期間が長くなる傾向も示されています。

特に注意したいのが、転倒、墜落・転落、無理な動作、はさまれ・巻き込まれです。

もっとも、健康状態や体力には個人差があります。

会社に必要なのは、年齢だけで判断することではなく、次の2つを組み合わせて考えることです。

・本人の健康や体力の状態
・作業内容や職場環境に潜むリスク

「人と仕事の組み合わせ」を確認することが、労災防止の出発点になります。

令和8年4月からの努力義務とは

改正労働安全衛生法により、第62条の2が新設されました。

令和8年4月1日から、事業者は、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるよう努めなければなりません。

具体的な内容は、厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」に示されています。

「努力義務」は、何もしなくてもよいという意味ではありません。

事業場における高年齢者の就労状況や業務内容に応じて、実施可能な対策に取り組むことが求められます。

なお、指針は「高年齢者」を一律の年齢で線引きしていません

統計や補助金では主に60歳以上という区分が使われていますが、60歳になったら一律に仕事を制限するという趣旨ではありません。

身体機能の変化には個人差があるため、年齢だけではなく、本人の状態や業務の危険性に応じて対策を検討する必要があります。

会社が取り組む5つの対策

厚生労働省の指針が示す内容は、大きく次の5つに整理できます。

① 方針と担当者を決める

経営者が高年齢労働者の労災防止に取り組む方針を示し、担当者を明確にします。

過去の災害やヒヤリハット、従業員が負担に感じている作業を確認し、労使で優先するリスクを話し合います。

② 職場環境と作業方法を改善する

まずは「本人に注意させる」よりも、設備や作業方法の改善を検討します。

例えば、次のような対策です。

・段差の解消、手すりや照明の設置
・滑りやすい床の改善
・リフトや補助機器の導入
・荷物の小口化、作業台の高さの調整
・休憩、水分補給、作業速度の見直し
・複数の作業を同時に任せない

高年齢者だけでなく、若い従業員や新入社員にとっても安全な職場となる対策を優先することが大切です。

③ 健康と体力の状態を把握する

雇入れ時・定期健康診断を確実に実施します。

必要に応じて、厚生労働省の「転倒等リスク評価セルフチェック」や質問票などを活用し、体力の状態を継続的・客観的に確認します。

健康や体力に関する情報は、慎重に取り扱わなければなりません。

利用目的、本人同意の方法、結果を確認する担当者、社内での共有範囲、保管方法などを事前に決めておく必要があります。

④ 状態に応じて仕事を調整する

健康や体力の状態を踏まえ、必要に応じて、作業内容、労働時間、深夜勤務、重量物の取扱い、休憩などを見直します。

年齢だけを理由に仕事から外すのではなく、「どのような方法や環境なら安全に働けるか」を本人と話し合います。

医学的な判断が必要な場合は、産業医等の意見も確認します。

⑤ 本人と管理者に教育する

高年齢者本人だけでなく、管理監督者や一緒に働く従業員にも教育を行います。

写真や動画を使い、作業手順と危険性が具体的に伝わるようにすることが有効です。

再雇用や再就職により、経験のない仕事を任せる場合は、特に丁寧な教育が必要です。

体力チェックを「選別」にしない

今回の法改正によって、すべての高年齢労働者に一律の体力テストが義務づけられたわけではありません。

指針は、体力の状況を継続的・客観的に把握することを「望ましい」取組として示しています

実施する場合も、その目的は、採用、退職、配置転換のために「働けない人」を探すことではありません。

例えば、つまずきやすさや物の持ち上げにくさが分かった場合に、床、照明、手すり、荷物の重さ、休憩、配置などを見直すために活用します。

運用するときは、次の点に注意が必要です。

・実施目的を本人へ丁寧に説明する
・仕事と関係のない一律の基準を設けない
・結果だけで不利益な取扱いを決めない
・個人情報の共有範囲を限定する
・基準に満たない場合は、職場改善や支援を検討する

体力チェックから導くべき結論は、「働ける・働けない」の二択ではありません。

どこにリスクがあり、何を変えれば安全に働き続けられるかを、本人と会社が一緒に考えるための材料にすることが本来の目的です。

会社が高年齢労働者の安全衛生対策を始める手順

大がかりな設備投資から始める必要はありません。

まずは、次の順番で進めると取り組みやすくなります。

1.経営者が方針を示し、担当者を決める
2.現場を歩き、従業員が「怖い・きつい」と感じる作業を聴く
3.優先するリスクを3つ程度に絞る
4.清掃、照明、休憩、荷物の小口化など、すぐできる対策から始める
5.対策、担当者、期限を記録し、効果を見直す

また、令和8年度のエイジフレンドリー補助金では、要件を満たす中小企業について、専門家によるリスクアセスメント、設備改善、転倒・腰痛予防、熱中症対策などが補助対象となっています。

申請期限や対象経費が定められており、交付決定前に発注・購入したものは補助対象になりません。利用するときは、必ず最新の案内を確認してください。

セーフコア社会保険労務士事務所では、高年齢労働者の労災防止に向けた社内方針、実施体制、従業員への説明、安全衛生教育、就業上の取扱いに関するルールづくりを支援します。

「何から確認すればよいか分からない」という段階でも、会社の規模や業種に合わせて一緒に整理いたします。

ご相談はセーフコア社会保険労務士事務所までお問い合わせください。

  • URLをコピーしました!
目次