従業員の遅刻が続いている、報告が遅い、業務上のミスが改善されない。
このような場面で、会社や上司が注意指導を行うことは必要です。注意すべき場面で何も言わなければ、職場の秩序が乱れたり、他の従業員の不満につながったりすることもあります。
一方で、伝え方を誤ると、本人から「パワハラを受けた」と受け止められ、労働トラブルに発展する可能性があります。
大切なのは、注意指導をしないことではありません。業務上必要な指導を、適切な方法で行うことです。
注意指導そのものがパワハラになるわけではない
職場のパワーハラスメントは、優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものをいいます。
つまり、上司から部下への指導であっても、業務上必要で、客観的に見て相当な範囲で行われているものであれば、ただちにパワハラになるわけではありません。
しかし、「指導だから何を言ってもよい」ということではありません。
たとえば、ミスを指摘する場面であっても、人格を否定する言葉、長時間の叱責、他の従業員の前で必要以上に責める行為、威圧的な言動などがあれば、トラブルに発展する可能性があります。
注意指導で大切なのは、目的を明確にすることです。
目的は相手を責めることではなく、業務上の問題点を改善し、職場全体が安心して働ける状態を整えることにあります。
「何を言うか」だけでなく「どう伝えるか」が大切
労働トラブルでは、「何を言ったか」だけでなく、「どのような言い方だったのか」が問題になることがあります。
同じ内容でも、落ち着いて具体的に伝える場合と、感情的に強い口調で責める場合では、相手の受け止め方は大きく変わります。
たとえば、次のような伝え方は注意が必要です。
「何回言えばわかるんだ」
「社会人として失格だ」
「だから君はダメなんだ」
このような言葉は、業務上の問題点ではなく、相手の人格や存在そのものを否定するように受け取られやすくなります。
一方で、次のように伝えると、指導の目的が明確になります。
「今月、始業時刻に間に合わなかった日が3回あります」
「朝礼前の準備に影響が出ているため、改善が必要です」
「難しい事情がある場合は、事前に相談してください」
このように、事実、業務への影響、改善してほしい行動を分けて伝えることで、感情的な叱責ではなく、業務上必要な指導として伝わりやすくなります。
人格ではなく行動に焦点を当てる
注意指導で特に意識したいのは、「人」ではなく「行動」に焦点を当てることです。
問題にすべきなのは、本人の性格や人格ではなく、業務上どの行動に問題があり、今後どのように改善してほしいのかです。
たとえば、報告が遅い従業員に対して、
「君は責任感がない」
と伝えるのではなく、
「報告が当日の夕方になったことで、取引先への回答が遅れました。今後は、午前中に状況を共有してください」
と伝える方が、改善点が明確になります。
注意指導は、相手を追い詰めるためのものではありません。会社として求める行動を伝え、改善の機会を与えるためのものです。
そのためには、管理職側にも、感情をコントロールする力が求められます。
怒りや焦りが強い状態で指導すると、言葉が強くなりすぎたり、余計な一言が出たりすることがあります。
強い言葉をぶつけるのではなく、一呼吸置いてから伝えることも、職場トラブルを防ぐうえで大切です。
注意指導の記録を残しておく
注意指導を行った場合は、記録を残しておくことも大切です。
記録がないまま対応を重ねていると、後になってトラブルになったときに、会社がどのような経緯で、どのような指導を行ったのかを説明しにくくなります。
記録には、少なくとも次のような内容を残しておくとよいでしょう。
・日時
・場所
・同席者
・問題となった事実
・本人に伝えた内容
・本人の言い分
・今後の改善内容
・次回確認する時期
ここで大切なのは、感情的な評価ではなく、できるだけ事実を中心に残すことです。
「態度が悪かった」「反省していない」といった主観的な表現だけではなく、「何について説明したのか」「本人がどのように回答したのか」「今後どのような改善を求めたのか」を記録しておくことが重要です。
記録は会社が適切な手順で対応していることを確認し、本人にも改善の機会を与えるためのものです。
会社の対応力を高める
中小企業では、管理職が十分な研修を受けないまま、現場で部下の指導を任されていることがあります。
その結果、本人は「きちんと指導しているつもり」でも、伝え方が強くなりすぎたり、記録が残っていなかったりして、後からトラブルになることがあります。
労働トラブルを防ぐためには、問題が起きてから対応するだけでなく、事前に会社の対応力を高めておくことが大切です。
たとえば、次のような準備が考えられます。
・管理職向けに、パワハラと適正な指導の違いを研修する
・注意指導や面談の記録方法を社内で共有する
・ハラスメント相談窓口を整備する
・就業規則に服務規律、懲戒、ハラスメント防止、相談体制を明記する
・問題が起きたときに、誰がどの順番で対応するのかを決めておく
こうした準備があることで、会社も管理職も、落ち着いて対応しやすくなります。
注意指導は、職場の秩序を守るために必要な場面があります。しかし、感情的な叱責や場当たり的な対応になれば、かえって労働トラブルにつながる可能性があります。
研修で職場の意識を整え、労務相談と就業規則などで会社の対応力を高めることが、労働トラブルの予防につながります。
SAFECORE社会保険労務士事務所では、福岡の中小企業を中心にのハラスメント対策、管理職研修、就業規則整備、労務相談を通じて、職場トラブルを未然に防ぐための体制づくりを支援しています。


